冒頭に立松昇一代表より、収録作品の選択や配列などについて説明があった後、「花の声」「ご加護」(吉田智美訳)、「透明」「魯迅のヒゲ」(立松昇一訳)、「刀宴」(柚木昇訳)、「座禅入門」「説得」(井田綾訳)、「清明」「流れのままに」(関久美子訳)、「枯れ木は語る」「マルク・リブーまたは呉冠中」(齋藤晴彦訳)、「茶館夜話」「ドッグトレーナーの愛情」(中山淳子訳)、「ヘップバーンよ、ヘップバーン」(舩山明音訳)について、訳者が報告(訳者欠席の場合は代表よりコメント)し、他のメンバーからも質問や感想が寄せられました。
訳者からの報告の内容としては、まず作品によっては原作のテキストに複数のバージョンがあったり、本文や「……」などの記号に異同があった場合の処理について挙げられ、テキストの異同を通じて創作に対する作者の姿勢が垣間見られたという感想もありました。
また、作品に対する訳者の感想を通じて、各作品で扱われているテーマに共通性も見られることが分かりました(女性の精神的成熟、弱さや迷いを抱えた男性像、中国の伝統文化の断絶や西洋文化との接触、社会の変化など)。作品の構成については、物語の書き出しやエンディングの仕方に特徴があるという意見もありました。
翻訳にあたって苦労した点については、様々な問題が挙げられました。原文で文語調の部分など、文体の違いをどう反映するか。登場人物の属性によって語りや会話文をどのように訳し分けるか、役割語をどこまで使うか。原文のコミカルな部分やリズム、緊迫感を訳文でどこまで表現できるか。注をどこまで入れるか、改行をどうするか。日本語の文末表現をどのように工夫するか。作品世界のイメージを助ける写真などを入れてもよいか。また簡体字をすべて日本漢字に直してよいかという問題もありました。
今回の交流会では、メンバーの親睦に加え、特別号『魯迅のヒゲ 蔣一談短篇小説集』を通じ、蒋一段という一人の作家の作品世界や、中日小説翻訳に際しての様々な問題が共有できたことが大きな収穫となりました。